2022
Apr
16
仕事とは我慢して耐えることなのか
先日、定年まで勤めあげて退職する方から、お別れ会の席でボソッと「虫とり小僧さん、忍耐の“忍”だよ」と言われたのがずっと胸に残っています。
去っていくその方がごく普通の人であれば、そんな言葉を聞いても、よくあるセリフだと思うだけで屁とも感じなかったでしょう。が、その方は(ある意味において、というか少なくとも私には)とても普通とは思えない境遇の人でした。
ここではその方を「真田さん」としておきます。彼はある武道の高位有段者であり、その世界ではかなりの有名人でした。
去っていくその方がごく普通の人であれば、そんな言葉を聞いても、よくあるセリフだと思うだけで屁とも感じなかったでしょう。が、その方は(ある意味において、というか少なくとも私には)とても普通とは思えない境遇の人でした。
ここではその方を「真田さん」としておきます。彼はある武道の高位有段者であり、その世界ではかなりの有名人でした。
◎教祖から下っ端社畜へ
真田さんはその(武道の)世界では最高レベルにいたので、ある組織内では王様というか教祖のような力と影響力を持っていました。そりゃもう、色々とやりたい放題だったと思います。知人からちょろっと聞いた話だけでも、とてもここには書けないようなエピソードばかりです。
しかし、40歳を過ぎた頃くらいでしょうか。「ある失敗」がきっかけで、それまで持っていた力を使えない場所で働くことを余儀なくされてしまいました。
中卒で大関にまでなった力士が親方になってブイブイ言わせていたのに、突然、中小企業の経理課の係長になったようなものです。
当然、新たな職場ではそれまでの組織や業界での影響力はほぼ全く使えず、能力も経験もないまま、定年まで約20年も我慢することが既定路線になってしまいました。
辞めるという選択肢もあったとは思いますが、元の世界に戻るのは仁義に反すると思ったのか、そもそも辞めても食べていくのは難しいことが分かっていたのか、真田さんは文句も言わず不得手な仕事に淡々と取り組みました。おそらく親しい同僚はいなかったはずです。ランチは毎日一人でした。
私が一緒に仕事したのは、真田さんのキャリア晩年にあたりますが、ハッキリ言って彼は使えないおじさんでした。
でも、真田さんは武道の世界で持っていた力を使おうとしたり、誇示したことは一度もありません。大勢いる年下の上司にはもちろん、私に対しても普段は敬語を使っていました。
◎真田さんの言葉
そんな真田さんが退職するにあたり、私が浮世の義理でお別れの席で隣に座った際に、冒頭にも書いた「虫とり小僧さん、忍耐の“忍”だよ」と声をかけてくれたのです。
ひょっとしたら、私の現在の微妙な境遇を憐れむというか、エールを送ってくださったのかもしれません(私は何か失敗したわけではないものの、同じ職場内では真田さんの境遇に近いと言えなくもない感じなので)。
お別れ会の帰り道、なんと私は真田さんと一緒に帰ることになってしまいました。
帰り道で彼から聞いたのは、今でも毎日の早朝ランニングと週3回の稽古を欠かしていないこと。また、「失敗」後は家族の生活のために、どんな屈辱があっても耐えると決め、歯を食いしばって仕事をしてきたことなどでした。
真田さんのお子さんたちは皆、誰もが名を知る一流私立中学校から大学まで進み、これまた超一流企業に就職して、今は結婚して子供もいて家まで買っているそうです。
◎給料は我慢料?
真田さんは、成功して登りつめたとか、勢いよく駆け抜けたとか、得意なことや好きなことを極めたわけではありません。
若い頃はハンパなかったらしいものの、失敗してからは不得意な仕事を与えられ、周囲にバカにされつつも、苦手なことを我慢してやり続けただけです。
でも、もしも真田さんと全く同じ境遇になったら、はたして自分にも同じようにできるだろうかと考えてしまいます。それまでの状況との落差や持っている能力を発揮できない状況を考えると、自分には耐えられないような気もします。
仕事を楽しむとか、前向きに取り組むとか、趣味の延長にするとか、クリエイティブな仕事をするとか、たしかにそういうことが可能なケースやタイミングも存在するでしょう。しかしながら多くの場合、仕事には嫌なことがあって、我慢しなければならないこともたくさんあるはずです。いやそのほうが多いはず。
そんなことばかりを考えるようになってしまった最近の私には、
「忍耐の“忍”だよ」
という真田さんの一言が、妙に響いてしまいました。
すべての仕事がそうだとは思わないものの、そのように考えて、真田さんがこれまで受けてきた屈辱や耐えてきた境遇を思うと、今の自分の状況がさほどツラいとは思えなくなるのが不思議です。
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