2022
Jan
19
航路を守り過ぎてしまった男の武勇伝…『航路を守れ:バンガードとインデックス革命の物語』(ジョン・C・ボーグル著、石塚順子訳)を読みました
発売されてすぐに買い、ざっと読んだものの、なかなかヘビーだったため、いずれじっくり読もうと思いテレビ棚の上に積んであった本書を頑張って読み直しました。

ボーグルヘッズ日本支部設立メンバーとしては、読まないわけにいきません(参考記事)。
世界最大級の投資信託運用会社バンガードの創設者にして、個人投資家向けインデックスファンドの生みの親であるジョン・ボーグルさんの(ほぼ)自伝です。

ボーグルヘッズ日本支部設立メンバーとしては、読まないわけにいきません(参考記事)。
世界最大級の投資信託運用会社バンガードの創設者にして、個人投資家向けインデックスファンドの生みの親であるジョン・ボーグルさんの(ほぼ)自伝です。
◎投資本じゃないよ
あだ名は「ジャック」で、略称サインは「JCB」と日本のクレジットカードみたいでなんだかかわいいなぁ、とか、インデックスファンドのコストは安いのにこの本の価格はずいぶん高いなぁ、なぞとしょうもないことを思いながら読み始めました。
バフェット、タレブ、ボルカー……冒頭から金融界を中心とする大物たちのコメントがズラリ。偉大なるボーグルさんのスゴさを見せつけられ、襟を正して読む必要性を痛感させられます。
そして、私は延々と続く偉大なるおじさんの「最後の」自分語りに付き合いました。
そうです。この本は「投資本」ではなく、ボーグルさんとバンガード社とその商品などについての回顧本であり、基本的には投資そのものの勉強ができる本ではないのです。
相当なマニアでない限り、楽しみながら読むことは難しいと言わさずを得ません。
◎繰り返される名言
幸いにも私は例外的なマニアであるため、この本を楽しむことができました。
水戸黄門の印籠のように、多くの章の最後には「航路を守る」という見出しがあり、それについての記述があります。
かの有名な明治大学ラグビー部の故・北島忠治監督の「前へ」のように、あらゆるものに応用可能かつ物事の本質をついた一言は、目にするたびに新たな気づきを与えてくれます。
次の章の最後にも「航路を守れ」って書いてあるのかなぁ……と思い、実際にその文字が出て来るとキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!となります。なんとも言えない中毒性があるのです。
「もしかすると航路を守りすぎたのかもしれない」という一文も出てきたりして、ひょっとしてボーグルさん、少し狙ってるのかな?なーんて思ったり。
◎戦いの記録
ボーグルさんは「ウォール街の良心」などと言わることもありますが、ご本人のキャラクターは、それまでの金融業界の常識をぶっ壊し続けることに生きがいを感じるような極めて好戦的な人物だったようです。基本的には「目には目を」のタイプ。
おそらくご本人は金融業界と戦争しているつもりだったのでしょう。「バンガード」という社名の由来も大英帝国の海軍がフランス軍をコテンパンにやっつけたときの旗艦名。その名前をつけたとき、興奮している取締役は(ボーグルさん以外にはほとんど)いなかったという回顧には思わずクスッと笑ってしまいました。
それまでに誰もやらなかった、パッシブ運用(ある意味運用しない)を徹底的な低コスト(実費)で行うことを武器に、既存の金融業界に殴り込んでいった様子が本書にはバッチリと書かれています。
実際、自分(たち)のやってきたことを何度も「戦い」と表現しています。ただ、その結果として、海と世代を超え私を含む個人投資家にとって大きな利益をもたらしてくれていますし、その教えは非常に有用であり、いくら感謝してもし足りないものだと認識しています。
私は、ボーグルさん自体、バンガード自体は好きでも嫌いでもありません。好きだとか尊敬しているとかになると冷静な判断ができなくなるとさえ思っています。
読めば読むほどに、ボーグルさんもバンガード社も、世界の中心たるアメリカだけがその世界観であり、アメリカの個人投資家向けにサービスを提供しメッセージを発していると感じます。
しかしながら、それでも、ボーグルさんとバンガード社のやってきたことの恩恵を間接的に受けている事実は痛いほど分かっているつもりです。
【9年くらい前に書いた参考記事:バンガード社(米国大手投資信託会社)は日本人のことなんて眼中にない】
◎マニア向けの一冊
様々な意味において、航路を守りすぎてしまった男の一代記を、私は充分に堪能できたと思っています。
ボーグルさんがこれまでに直接会った大統領自慢とか、心臓移植の話とか、若い頃の接客アルバイトの話とか、意外と読み応えのある小話も随所に散りばめられています。
ただし、インデックス投資※の勉強をしようと思ってもほとんどその役割は果たさない本です。正直なところ、誰にでもオススメできる本ではないので、マニア向け一冊と紹介しておきましょう(※参考:インデックス投資とは)。
ボーグルさんがETFよりも伝統的なインデックスファンド(TIF)を推す理由、商品のコンセプトを複雑にしてしまったがゆえの失敗、日本のことは辺境の新興国のように見ていると思える記述、ボーグルさんとバンガード社の関係が良好とは言えないように感じる出来事……このあたりのことが気になる人には読む価値があるかもしれません(ニヤリ)。

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