2018
Nov
17
金融庁の幹部が寄稿してくれたよ、このブログにね
金融庁の幹部名簿に名を連ねている幼馴染が、国民の安定的な資産形成に向けて取り組んでいることなどについて、このブログに寄稿してくれました。
先日サシで一杯やったときに、半ば冗談で「今度さ、俺のブログになんか書いてよ」と言ってみたら、なんとあっさりOK。
※参考:彼と偶然再会した経緯を書いた記事
↓
身バレ?…ブロガー活動で偶然リアル知人と出会った話
寄稿文には、金融庁の「国民の安定的な資産形成」に向けての取り組みや狙いについて、とても分かりやすい説明が綴られており、共通KPIの解説や現状の結果に対する最新の考察もあります。
また、小学生の頃の彼から見た私の印象なんかも……。
んでは、その全文を掲載します。
先日サシで一杯やったときに、半ば冗談で「今度さ、俺のブログになんか書いてよ」と言ってみたら、なんとあっさりOK。
※参考:彼と偶然再会した経緯を書いた記事
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身バレ?…ブロガー活動で偶然リアル知人と出会った話
寄稿文には、金融庁の「国民の安定的な資産形成」に向けての取り組みや狙いについて、とても分かりやすい説明が綴られており、共通KPIの解説や現状の結果に対する最新の考察もあります。
また、小学生の頃の彼から見た私の印象なんかも……。
んでは、その全文を掲載します。
―――以下、寄稿文―――
1 はじめに
皆さんはじめまして。以前、このブログで紹介いただいた、「ケイ」と申します。現在、金融庁で働いております。
虫取り君とは30年近く前に小学校で一緒だったわけですが、実は彼が投資の世界で著名ブロガーであり、金融庁でのイベントでも中心人物として活躍していることは最近知りまして、非常に驚いております。
以前の記事にもありましたが、私にとっての彼のイメージは、とにかく「いたずらを仕掛けるやんちゃな少年」というもので、正直、堅実に資産形成するイメージとはかなり距離があったものですから…
彼が、(失礼ながら)未公開株とか投資用不動産の勧誘とか、最近でいうとICOのトークンセールスとかをやっているのではなくて、長期・積立・分散投資の重要性を説いているというのは、いい意味で驚きでした。
いずれにせよ、今回、彼のご厚意で、現在金融庁が国民の安定的資産形成に向けて取り組んでいることについて、記事を書かせていただくことになりました。ご興味があれば、ご一読いただければ幸いです。
※なお、本投稿内容は私個人としての見解であり、金融庁の見解を代表するものではありません。また、元本保証のない商品への投資はあくまで自己の責任において行っていただくよう、お願い申し上げます。
2 これまでの経緯
(1) 高い日本の現預金比率
日本の家計金融資産は、1,800兆円あります。そのうち半分以上の52%を現金・預金が占め、株式や投資信託といった「投資」に充てられているのは、約2割の18%に過ぎない状況です。
一方、アメリカでは、現預金比率は14%、株式・投信投資割合は46%、イギリスでは、現預金比率は24%、株式・投信投資割合は38%となっており、日本よりも投資に充てられている割合が高くなっています(いずれも2016年末の数値。株式・投信投資割合は、保険・年金による間接保有を含む)。

長期的・一般的には、預貯金の利率よりも、株式や投資信託の利回りのほうが、高くなる傾向があります。このため、米英の家計金融資産は、運用リターンによる伸びが日本よりも高くなっています。具体的には、運用リターンによる家計金融資産の伸びが、アメリカは2.45倍、イギリスは1.77倍となっているのに対し、日本は1.19倍にとどまっています(1995年(イギリスは1997年)と2016年との比較)。

我が国は300兆円以上の対外純資産を保有している一方、少子高齢化・人口減少の下高度の経済成長は望めない状態です。こうした中で、これまで蓄積された国民の富である金融資産を有効に活用することで、家計が安定的に資産形成を行い、ひいては消費・投資が活性化されることは極めて重要と考えられます。
(2) 以前の取組み
こうした問題意識は、実はかなり以前から持たれていました。2000年代、小泉内閣の時に、「貯蓄から投資へ」というスローガンの下、個人投資家が証券市場に参加しやすい環境整備が進められました。
具体的には、例えば、個人投資家が株式や投資信託を購入するに当たり、必要な情報がきちんと説明されることが必要である、ということで、金融商品取引法(金商法)という法律の中で、「株式や投資信託を販売する時は、お客さんに重要な情報を書いた書面(契約締結前交付書面)を渡しなさい」といったルールを設けました。また、金商法では、業者に「お客さんの知識、経験、財産の状況、投資目的」の要素を勘案したうえで金融商品販売する義務を課し、堅実な運用をしたい人にハイリスク商品を売りつけるようなことを禁止するルールが明記されました。
しかしながら、先ほども触れたように、家計の金融資産の半分以上が未だに預貯金という状況が続いています。
なぜ、このような状況が続いているのか。その原因として、主に以下の三点があるのではないかと、金融庁では考えています。
①これまで、長期・積立・分散投資を政策的に後押しするツールがなかったこと。
②投資教育が不足しており、投資に関する実践的な知識や手法が十分に浸透していないこと。
③投資信託を販売する事業者(銀行や証券会社)が、これまで必ずしも顧客本位の販売姿勢を取ってこなかったこと。
3 足元の取組み
上記①~③の課題を解決するため、金融庁では、ここ数年、本格的に取組みを進めています。
第一の「長期・積立・分散投資を後押しする政策」については、このブログの読者の方にとってはすでにお馴染みかもしれませんが、平成30年1月から「つみたてNISA」を開始しています。新規投資額毎年40万円が上限ですが、非課税期間は最長20年間であり、長期にわたって投資を非課税で継続できる制度です。
第二の実践的な投資教育ですが、今般の高校学習指導要領及び同解説の改訂で、社会科及び家庭科において、資産形成の観点を含め、金融経済教育にかかる内容が拡充されています。今後、学校での金融経済教育がより拡充されることが期待されます。また、学校教育に丸投げするのではなく、金融庁・財務局職員が行う出張授業も抜本的に拡充し、金融経済教育の更なる充実を図っていく予定です。
そして最後の第三が、金融事業者による顧客本位の業務運営の推進についてですが、これについては、多少解説が必要かと思います。
一般家計が、長期・積立・分散投資を始めるには、投資信託を購入することが最も簡単な手段と考えられます。そして、家計による投資が定着するには、個々の家計が投資信託の購入によって安定したリターンを得ることを経験することが重要であると考えられます。
他方、日本の投資信託(純資産額上位5銘柄)を米国と比較すると、下記の図にあるように、
- 規模は小さい
- 販売手数料、信託報酬は高い
- 収益率(手数料控除後)はマイナス
という状況にあります。

ここから推測されるのは、日本の金融機関は、手数料や信託報酬が比較的高い商品を優先して販売し、その時々のテーマ(新興国とかITとか)を謳った商品の乗換えを推奨しているのではないか、だから、規模の大きいロングセラーの投資信託が育たず、手数料控除後の収益率がマイナスになっているのではないか、ということです。つまり、金融機関は自身の収益を優先させて金融商品の販売を行っていて、顧客本位の販売が必ずしも行われていない可能性がある、ということです。
こうした状況を改めるには、どうすればよいか。先ほど触れたように、これまでは、金融機関に対して顧客への説明などルールを設けて対応してきたわけですが、こうした対応を続け、どんどん細かいルールを作り続けるのでは、金融機関が、「最低限のルールさえ守れば、あとは何をやっても良い」という意識から脱却せず、顧客本位への販売姿勢への転換が進まないことが懸念されました。
これまでのルールベースの対応ではなく、抽象的な原則(プリンシプル)を金融機関が採択し、金融機関同士で、顧客本位のよりよい取組みを具体的に競い合っていくことで、金融サービスの向上を図っていくほうがよいのではないか。
こうした考えから、金融庁は、2017年3月に、「顧客本位の業務運営の原則」を定め、金融事業者はこれを踏まえて、具体的な取組方針を策定・公表することとなりました。
「顧客本位の業務運営の原則」は、こちら(PDF)からご覧になれます。
4 「顧客本位」の取組の最新状況:共通KPIの設定とその結果
「顧客本位の業務運営の原則」を制定した際、各金融事業者において原則が定着していくよう、金融庁としては、
①各金融事業者による取組方針・実施状況を公表するよう、働きかけ
②顧客本位の業務運営の定着度合いを客観的に評価できるようにするための成果指標(KPI)を、取組方針やその実施状況の中に盛り込んで公表するよう働きかけ
③取組方針を策定した金融事業者の名称と内容のURLを金融庁のHPで公表
することとしました。
このうち、③の事業者名のリストの公表は、2017年7月から行っており、四半期毎に更新をしています。取組方針を公表した事業者は、着実に増加しており、本年11月7日時点では、合計1,488の事業者が公表しています。またKPIを公表した事業者も416にのぼります。
他方、各社が設定・公表したKPIはまちまちで、顧客が金融事業者を選択するにあたって、どれを選択すればよいのかの参考になりにくい、という意見がありました。このため、金融庁では昨年から、「比較可能な共通KPI」についての検討を進め、今年の6月に3つの指標、具体的には、
・運用損益別顧客比率
・投資信託預り残高上位20銘柄のコスト・リターン
・投資信託預り残高上位20銘柄のリスク・リターン
を、共通KPIとして定めました。
最初の「運用損益別顧客比率」とは、投資信託を保有している顧客の基準日時点の運用損益(手数料控除後)を算出したもので、金融事業者がどれくらいのリターンを個々の顧客に提供しているか、を表すものになります。
今年11月現在、この数値を公表したのは36社で、比較してみると、個社ごとに結構なばらつきがあることが見て取れます。いわゆる独立系投信と呼ばれる会社は、運用損益ゼロ以上の顧客割合が8割以上であるのに対し、運用損益ゼロ以上の顧客割合が4割未満である金融機関も見られます。36社を合算したベースでは、4割の顧客の運用損益率がマイナスという状況です。
※具体的にお知りになりたい方は、こちら(PDF)の最終ページをご覧ください。
ただ、ここで、「下位にきている金融機関=ダメな金融機関」という評価は、適切ではないと思います。先ほど触れたように、取組方針を公表しているのは1,488あるのに対し、運用損益別顧客比率を公表しているのはそのうちまだ36社に過ぎません。まだ公表していない金融機関がほとんどである中で、芳しくない結果であっても正直に公表した姿勢は、むしろ評価できると思います。また、あくまで現時点での成績であり、現在の数値をこれから伸ばしていくことが重要であると考えます。
いずれにせよ、共通KPIによる比較などを通じて、顧客本位の取組が進んでいるのはどのような金融機関であるのかを「見える化」し、金融機関同士の切磋琢磨によって、よりよい金融サービスの提供が行われていくことを、金融庁としては狙っているところです。
5 おわりに
以上、国民の安定的資産形成に向けた金融庁の施策について、その背景、これまでの取組みや、今現在の最新の状況について説明しました。この施策はまだまだ現在進行形であり、目に見える成果が現れるまでは息の長い取り組みが必要ですが、着実に続けていくことが重要であると考えます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
―――寄稿文は以上―――
ケイちゃん、力作ありがとう!

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