2014年10月10日
交通事故による診療には健康保険が使えない?【その3・実際に健康保険を使ったらどうなるか】
前回の記事(その2・保険診療と自由診療の違い)の続き
交通事故の被害者が健康保険を利用して診療を受けること(保険診療)は可能であるものの、保険診療よりも自由診療のほうが医療機関としては儲かる場合が多い、というようなことを前回書きました。
(前々回は、そもそも健康保険とはなにかについて書きました。)
今回はシリーズ最終回として、私が交通事故の被害者に付き添って、実際に健康保険を使おうとした時のことを記事にしてみます(数ある体験談のうちのひとつです)。
※この分野に関しても私は単なる雑魚素人です。事実の認識や制度の解釈などが必ずしも正しいとは限りませんので、その点にはご注意ください。
あの時の被害者は、自転車運転中に乗用車に撥ねられました。
目立った外傷はありませんでしたが、頭をぶつけて一時的に意識を失ったので、一応、救急車で病院へ搬送されました。
そして、ひと通りの検査をして、特に異常はないことが確認されました。
さあ、やってきた会計の時間・・・・・・
諸事情があって、私が被害者本人に代わって支払い手続きをしなければなりませんでした。
(このとき、既に私は、交通事故による診療にも健康保険が使えることを知っていました。)
病院の会計のお姉さん「交通事故扱いでよろしいですね※1。加害者の方や保険会社と連絡は取れていますか」
私「いえ、あのぅ、交通事故ではありますが、健康保険を使わせていただきたいのですが・・」
お姉さん(顔を曇らせて)「健康保険ですかぁ、、、う~んと、加害者の方や保険会社と連絡はとれていないんですか?」
私「加害者の方には、とりあえず健康保険で受診しますと伝えてあります。加害者と保険会社との連絡状況は分かりません。健康保険は使えないのですか?」
お姉さん(無表情になって)「使えないことはないのですが、どうしても使いたいのなら、まずは保険事務所に連絡して、許可を得てからにしてください」
お姉さんはそのままプイっと振り向いて、奥の部屋に入ってしまいました。
私はその場にポカーンと取り残され、異国の留置所に放り込まれたバックパッカーのような状態になりました。
なんとも言えないむなしさが私の胸を絞めつけます。あのときのむなしさを敢えて言葉にするなら、日曜日に家族連れで賑わう公園の片隅で、一人のおっさんがリコーダーで「コンドルは飛んでいく」を演奏しているようなものです。
私は、ストーカーのごとく執拗にお姉さんを追いかけて、「やい!おぬしは、昭和43年の10月12日に旧厚生省の課長から出された『健康保険及び国民健康保険の自動車損害賠償責任保険等に対する求償事務の取扱いについて』という通知を知らぬのか!?これは日本国憲法第25条の生存権を根拠としており、国民の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利であるといえなくもないのだぞ!そのことをどう心得る!?」と詰問したい衝動に駆られましたが、己がジェントルマンであることを思い出して自粛しました。
ひょっとしたら病院サイドとしては、保険診療では儲からないという理由ではなく、うやむやにされて診療費をとりっぱぐれるリスクや事務手続きが煩雑になるなどの問題を嫌がっているのかもしれませんが、朗らかな笑顔だったお姉さんが能面のような無表情(←閲覧推奨)になってその場からいなくなるような対応をされてしまうと、「やっぱり、健康保険は使われたくないんだな!」と思ってしまいます※2。
幸いその日は平日で、被害者は国民健康保険の加入者だったので、役所の担当課と連絡がつき、状況説明をしたら、健康保険利用の許可をもらうことができました(許可してもらうような事案なのかどうかは、ちょっと脇に置いておきます)。
もしも健康保険サイドの事務所と連絡がつかなかったり、加害者サイドの保険会社から支払いの了承が取れなかったりした場合は、すべて自由診療の自己負担として被害者が支払わなければならないケースもあるのでしょうか。。
(前回の記事でも書きましたが、最初は全額支払うと言っていた保険会社が、やっぱりビタ一文払わん!と言い出して、被害者が医療機関から診療の高額請求を受けるケースは見たことがあります。)
そういえば、とある企業の保険組合かなにかの健康保険加入者が、この段階で勤務先の総務に問い合わせたら、「できれば使ってほしくない」ようなことを言われ、使うのをやめたことがあるそうです。どうやら、健康保険の事務サイドとしても、交通事故で健康保険を使われるのは面倒なことのようです。
そもそも病気や怪我に健康保険が使えないケースは大きく分けて3つほどあります。
1.業務上もしくは通勤途上のもの
→労災保険のカバー範囲
2.無免許運転や飲酒運転などに起因するもの
→法令違反で怪我しても知らん!
3.交通事故や暴行など加害者がいるもの
→加害者が賠償すべきもの
交通事故の被害者は「3」のケースに該当します。
なるほど、第三者の行為によって受けた傷害は、その加害者に賠償責任があるので、健康保険の給付をすべきではないということですね。
しかしながら、国は国民の生活を快適なものにするために、交通事故被害者であっても健康保険を使って保険診療を受け、お手頃な価格で治療を受けられるようにも配慮してくれているのです(昭和43年10月12日の旧厚生省課長からの通知)。
健康保険の事務所は、7割を負担したあと、賠償責任を負っている加害者に診療費を請求するようです。
・・・ふむ、たしかにそれは面倒くさそうです。保険事務所が嫌な顔をするのも分かる気がします。
また、交通事故の被害者として健康保険を使うときには、被害者自ら関係保険事務所等(国民健康保険であれば役所の保険年金課など)に「第三者行為による傷病届」なる書類を提出する必要もあります。
・・・ふむ、これも面倒くさそうです。
ただ、自分で診療費を負担する必要がある場合は、自由診療よりも診療単価の低い保険診療を選択するということに一定の合理性はありそうな気もします。
ちなみに、今回の記事で紹介したケースでは、会計のお姉さんに「役所の担当課で許可がもらえましたぁ♪」とドヤ顔で言って、保険診療に切り替えてもらい、支払いを済ませました。
そのときのお姉さんは、ほぼ無言でした。
彼女の眉間に深い皺(しわ)が刻まれていたことは言うまでもありません。また、そのとき、私の小鼻が膨らんでいたことも言うまでもありません。
そしてその後、「第三者行為による傷病届」なる書類を提出するべく、役所の保険年金課に赴きました。
ただ、そのとき私が疑問に思ったのは、今回の事故による保険診療によって加害者に発生した賠償(負担)金額はわずか数千円、高く見積もっても1~2万円程度のものです。この程度の金額を回収するために、保険事務所はわざわざ加害者に請求するのだろうか、ということです。
そのあたりの疑問を役所の担当者にぶつけてみたところ、「実際は、回収のためのコストと回収見込み金額を考えてケース・バイ・ケースなんです」と、こっそり教えてくれました。つまり、小額の場合は通常の保険診療と同じように処理することもあるとのことでした。
なるほど、現実的に対応しているようで少し安心しました。
交通事故の被害者となった場合、加害者と自分がキチンと自動車保険に加入していて、既に支払いの了承等が取れているときなどは、あえて健康保険を使う必要もないでしょうが、状況によっては健康保険を使った保険診療も選択できることは知っておいたほうがよいかもしれませんね。
(そして、万が一、最初によく分からず「自由診療」を選択してしまっても、あとから「保険診療」に切り替えることが可能なことも知っておいたほうがよいでしょう。)
※1 「交通事故扱いでよろしいですね?」という言葉は、「自由診療でいいですね?」という意味です(前回の記事参照)。
※2 医療機関によっては、なんの拒否感もなく丁寧に健康保険の使い方を説明してくれることもありますが、経験的には嫌な顔をされることの方が多いのが実情です。
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・入院時の差額ベッド代は支払わなくてもよい?シリーズ
・賃貸契約更新時の値下げ交渉(更新料は支払わなくてもよい?)シリーズ

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交通事故の被害者が健康保険を利用して診療を受けること(保険診療)は可能であるものの、保険診療よりも自由診療のほうが医療機関としては儲かる場合が多い、というようなことを前回書きました。
(前々回は、そもそも健康保険とはなにかについて書きました。)
今回はシリーズ最終回として、私が交通事故の被害者に付き添って、実際に健康保険を使おうとした時のことを記事にしてみます(数ある体験談のうちのひとつです)。
※この分野に関しても私は単なる雑魚素人です。事実の認識や制度の解釈などが必ずしも正しいとは限りませんので、その点にはご注意ください。
◎交通事故で健康保険を使ってみるぞ!
あの時の被害者は、自転車運転中に乗用車に撥ねられました。
目立った外傷はありませんでしたが、頭をぶつけて一時的に意識を失ったので、一応、救急車で病院へ搬送されました。
そして、ひと通りの検査をして、特に異常はないことが確認されました。
さあ、やってきた会計の時間・・・・・・
諸事情があって、私が被害者本人に代わって支払い手続きをしなければなりませんでした。
(このとき、既に私は、交通事故による診療にも健康保険が使えることを知っていました。)
病院の会計のお姉さん「交通事故扱いでよろしいですね※1。加害者の方や保険会社と連絡は取れていますか」
私「いえ、あのぅ、交通事故ではありますが、健康保険を使わせていただきたいのですが・・」
お姉さん(顔を曇らせて)「健康保険ですかぁ、、、う~んと、加害者の方や保険会社と連絡はとれていないんですか?」
私「加害者の方には、とりあえず健康保険で受診しますと伝えてあります。加害者と保険会社との連絡状況は分かりません。健康保険は使えないのですか?」
お姉さん(無表情になって)「使えないことはないのですが、どうしても使いたいのなら、まずは保険事務所に連絡して、許可を得てからにしてください」
お姉さんはそのままプイっと振り向いて、奥の部屋に入ってしまいました。
◎笑顔だった会計のお姉さんが能面に
私はその場にポカーンと取り残され、異国の留置所に放り込まれたバックパッカーのような状態になりました。
なんとも言えないむなしさが私の胸を絞めつけます。あのときのむなしさを敢えて言葉にするなら、日曜日に家族連れで賑わう公園の片隅で、一人のおっさんがリコーダーで「コンドルは飛んでいく」を演奏しているようなものです。
私は、ストーカーのごとく執拗にお姉さんを追いかけて、「やい!おぬしは、昭和43年の10月12日に旧厚生省の課長から出された『健康保険及び国民健康保険の自動車損害賠償責任保険等に対する求償事務の取扱いについて』という通知を知らぬのか!?これは日本国憲法第25条の生存権を根拠としており、国民の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利であるといえなくもないのだぞ!そのことをどう心得る!?」と詰問したい衝動に駆られましたが、己がジェントルマンであることを思い出して自粛しました。
ひょっとしたら病院サイドとしては、保険診療では儲からないという理由ではなく、うやむやにされて診療費をとりっぱぐれるリスクや事務手続きが煩雑になるなどの問題を嫌がっているのかもしれませんが、朗らかな笑顔だったお姉さんが能面のような無表情(←閲覧推奨)になってその場からいなくなるような対応をされてしまうと、「やっぱり、健康保険は使われたくないんだな!」と思ってしまいます※2。
◎なんとか健康保険は使えたけど・・
幸いその日は平日で、被害者は国民健康保険の加入者だったので、役所の担当課と連絡がつき、状況説明をしたら、健康保険利用の許可をもらうことができました(許可してもらうような事案なのかどうかは、ちょっと脇に置いておきます)。
もしも健康保険サイドの事務所と連絡がつかなかったり、加害者サイドの保険会社から支払いの了承が取れなかったりした場合は、すべて自由診療の自己負担として被害者が支払わなければならないケースもあるのでしょうか。。
(前回の記事でも書きましたが、最初は全額支払うと言っていた保険会社が、やっぱりビタ一文払わん!と言い出して、被害者が医療機関から診療の高額請求を受けるケースは見たことがあります。)
そういえば、とある企業の保険組合かなにかの健康保険加入者が、この段階で勤務先の総務に問い合わせたら、「できれば使ってほしくない」ようなことを言われ、使うのをやめたことがあるそうです。どうやら、健康保険の事務サイドとしても、交通事故で健康保険を使われるのは面倒なことのようです。
◎健康保険が使えないケース
そもそも病気や怪我に健康保険が使えないケースは大きく分けて3つほどあります。
1.業務上もしくは通勤途上のもの
→労災保険のカバー範囲
2.無免許運転や飲酒運転などに起因するもの
→法令違反で怪我しても知らん!
3.交通事故や暴行など加害者がいるもの
→加害者が賠償すべきもの
交通事故の被害者は「3」のケースに該当します。
なるほど、第三者の行為によって受けた傷害は、その加害者に賠償責任があるので、健康保険の給付をすべきではないということですね。
しかしながら、国は国民の生活を快適なものにするために、交通事故被害者であっても健康保険を使って保険診療を受け、お手頃な価格で治療を受けられるようにも配慮してくれているのです(昭和43年10月12日の旧厚生省課長からの通知)。
健康保険の事務所は、7割を負担したあと、賠償責任を負っている加害者に診療費を請求するようです。
・・・ふむ、たしかにそれは面倒くさそうです。保険事務所が嫌な顔をするのも分かる気がします。
また、交通事故の被害者として健康保険を使うときには、被害者自ら関係保険事務所等(国民健康保険であれば役所の保険年金課など)に「第三者行為による傷病届」なる書類を提出する必要もあります。
・・・ふむ、これも面倒くさそうです。
ただ、自分で診療費を負担する必要がある場合は、自由診療よりも診療単価の低い保険診療を選択するということに一定の合理性はありそうな気もします。
◎保険事務所の実態
ちなみに、今回の記事で紹介したケースでは、会計のお姉さんに「役所の担当課で許可がもらえましたぁ♪」とドヤ顔で言って、保険診療に切り替えてもらい、支払いを済ませました。
そのときのお姉さんは、ほぼ無言でした。
彼女の眉間に深い皺(しわ)が刻まれていたことは言うまでもありません。また、そのとき、私の小鼻が膨らんでいたことも言うまでもありません。
そしてその後、「第三者行為による傷病届」なる書類を提出するべく、役所の保険年金課に赴きました。
ただ、そのとき私が疑問に思ったのは、今回の事故による保険診療によって加害者に発生した賠償(負担)金額はわずか数千円、高く見積もっても1~2万円程度のものです。この程度の金額を回収するために、保険事務所はわざわざ加害者に請求するのだろうか、ということです。
そのあたりの疑問を役所の担当者にぶつけてみたところ、「実際は、回収のためのコストと回収見込み金額を考えてケース・バイ・ケースなんです」と、こっそり教えてくれました。つまり、小額の場合は通常の保険診療と同じように処理することもあるとのことでした。
なるほど、現実的に対応しているようで少し安心しました。
交通事故の被害者となった場合、加害者と自分がキチンと自動車保険に加入していて、既に支払いの了承等が取れているときなどは、あえて健康保険を使う必要もないでしょうが、状況によっては健康保険を使った保険診療も選択できることは知っておいたほうがよいかもしれませんね。
(そして、万が一、最初によく分からず「自由診療」を選択してしまっても、あとから「保険診療」に切り替えることが可能なことも知っておいたほうがよいでしょう。)
※1 「交通事故扱いでよろしいですね?」という言葉は、「自由診療でいいですね?」という意味です(前回の記事参照)。
※2 医療機関によっては、なんの拒否感もなく丁寧に健康保険の使い方を説明してくれることもありますが、経験的には嫌な顔をされることの方が多いのが実情です。
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