2014
Jun
05
指定参加者の役割とは(ETFの「基準価額」と「市場価格」の乖離問題)
前回の記事で、「マーケットメイカー(market maker)」の簡単な解説をしたあと、オークション方式とマーケットメイク方式の取引の違いなどについて書きました。
上手に説明できない自分に歯がゆい思いをしましたが、それが己の能力なので仕方ありません。引き続き難解な話をより難解にする“へなちょこ解説”を続けたいと思います。
さて、普通の人には馴染みが薄いとは思いますが、「マーケットメイカー」について、インデックス投資家※1に関係してきそうな問題となると、「ETF(上場投資信託)の「基準価額」と「市場価格」の乖離」が思い浮かびます※2。
この問題は、国内ETFをコア金融資産に利用している(もしくは利用を検討している)個人投資家にとって、とても重要な話だと思います。
上手に説明できない自分に歯がゆい思いをしましたが、それが己の能力なので仕方ありません。引き続き難解な話をより難解にする“へなちょこ解説”を続けたいと思います。
さて、普通の人には馴染みが薄いとは思いますが、「マーケットメイカー」について、インデックス投資家※1に関係してきそうな問題となると、「ETF(上場投資信託)の「基準価額」と「市場価格」の乖離」が思い浮かびます※2。
この問題は、国内ETFをコア金融資産に利用している(もしくは利用を検討している)個人投資家にとって、とても重要な話だと思います。
◎ETFの「基準価額」と「市場価格」の乖離
ETFとは、株式のような売買方式で取引される(市場に上場されている)投資信託です※3。
ETFの「基準価額(投資信託としての評価額※4)」と「市場価格(株価のように市場で成立した売買価格)」は、本来一致すべきものですが、実際にはピタリと一致するわけではありません。
需給の関係で、ETF本来の価値である「基準価額(理論価格)※5」を、実際の売買の値段である「市場価格」が上回ったり下回ったりしています。
かなり単純化した例え話をすると、1000円の飼育ケースに、1匹100円のヤモリが10匹入った2000円の「爬虫類飼育入門セット」が、市場(取引所)では1500円で売られていたり(安い!)、2500円で売られている(高い!)場合があるのです。
上記の例え話では、「爬虫類飼育入門セット」が「ETF」で、「飼育ケースやヤモリ」が「ETFのなかにパッケージされている個別銘柄」になります。2000円が基準価額(本来の価値・理論価格)で、1500円や2500円が市場価格(売買価格)です。
国内ETFの上場している市場(取引所)では、基本的にオークション形式で売買が成立するので、基準価額に関係なく、買いたい人が多いければETFの取引価格(市場価格)は上がり、売りたい人が多いければ下がります(株価と同じです)。
まぁ、2000円くらいの「爬虫類飼育入門セット」の値段が多少上下する(本来の価値から乖離する)くらいならあまり問題はないかもしれませんが、個人投資家が資産形成のために利用している数百万・数千万円単位のETFが、本来の価値よりも高くなったり安くなったりしては困りますよね。
運悪く、買うときに本来の価値より高く買ってしまって、売るときに本来の価値よりも安く売れてしまうようでは、資産形成のための金融商品として安心して利用することはできません。個人投資家としては、ETFが常に適正価格で売買できることが望ましいわけです。
◎指定参加者とは
そこで、基準価額と市場価格の乖離を抑えるべく、「指定参加者」と呼ばれる特別な許可を得た(ETFの設定と交換ができる)金融機関が、ETFの販売会社のような存在として“裏方”で頑張っています(設定と交換については後ほど解説します)。
指定参加者とは、ETFの円滑な売買に努める証券会社(2社以上がETF上場時に確約)のことで、投資家の売り買い相手となる「マーケットメイカー」にもなります(厳密には、マーケットメイクはせずに設定と交換のみを受託して行う指定参加者もいるので、その場合は「マーケットメイカー」ではなくなりますが)。
また、ETFの設定や交換はできないものの、その作業(設定・交換)は指定参加者に委託して、裁定取引のみを積極的に行う「マーケットメイカー(海外の機関投資家など)」もいます(裁定取引についても後ほど解説します)。
ただ、あんまり細かい話になってしまうと、難しい話がより難解になってしまいますし、「指定参加者」と「マーケットメイカー」は重なり合うことが多いので、この記事では、ざっくりと「ETFの売買成立を助ける裏方さん=指定参加者=マーケットメイカー」として解説を進めます。
◎指定参加者の役割(仕事)は
さて、指定参加者のやることを、先ほどの「爬虫類飼育入門セット」の例で説明してみましょう※6。
指定参加者は、「爬虫類飼育入門セット」を作ったり(これを「設定」といいます)、「爬虫類飼育入門セット」からヤモリや飼育ケースを取り出して(これを「交換」といいます)、爬虫類ショップとの間で売買することができます。
一般人には、「爬虫類飼育入門セット」を作ったり、「爬虫類飼育入門セット」からヤモリや飼育ケースを取り出すことはできません。
2000円の価値の「爬虫類飼育入門セット」を、2500円で買いたがっている人が市場(取引所)にいるとしましょう。
指定参加者は、爬虫類ショップで1000円の飼育ケースと10匹1000円のヤモリを買って2000円の「爬虫類飼育入門セット」を作り、それを市場で投資家に2500円で売ることによって、500円の利益を得ることができます。
今度は、2000円の価値の「爬虫類飼育入門セット」が、市場で1500円で売られている(売りたがっている人がいる)としましょう。
指定参加者は、市場で「爬虫類飼育入門セット」を1500円で買って、その中身(飼育ケース1000円・ヤモリ10匹1000円)を取り出して爬虫類ショップに2000円で売ることによって、500円の利益を得ることができます。
指定参加者のこのような売買を「裁定取引(アービトラージ)」といいます。
ヤモリの売買や飼育セット作りと同じように、指定参加者は実際にETFの受益証券組成(爬虫類飼育入門セット作り)や、ETFから個別銘柄を取り出しての売買(飼育ケースやヤモリをバラで売買)をタイミングよく瞬時に行っているのです。このようなETFの「設定」や「交換(解約)」は、東証の方に言わせると「職人芸のようなもの」だそうです※7。
なるほど、プロってカンジがしてなんかカッコいいですね。
この「設定」と「交換」という仕組みがあることによって、純資産残高が50億円のETFを100億円分購入する、なんてことも可能になるわけです。
よくもまあ、こんな仕組み(ETFという金融商品)を考えついたものです。
◎指定参加者(マーケットメイカー)さん、頑張って儲けて!
指定参加者は、頑張って裁定取引をすることで儲かります。
そして、指定参加者が頑張ってくれることで、基準価額と市場価格の差(乖離)はゼロに近づき、投資家の円滑な売買も可能になります。
なぜなら、ETFの市場価格が基準価額より低くければ、指定参加者が買いたがるため、買い圧力が強まって市場価格は上がり、乖離はゼロに近づき、また、ETFの市場価格が基準価額より高ければ、指定参加者はETFを組成して(設定して)売りたがるため、売り圧力が強まって市場価格は下がり、乖離はゼロに近づくことになるからです。
ETFが適正価格に近づくのであれば、個人投資家としては大歓迎です。
実際には、小さな乖離のETFでは裁定取引をしても儲からないので「やる気」がでなかったり、裁定取引でも(需給に負けて)乖離を縮められないこともあるようですが、マーケットメイカー(指定参加者の中のマーケットメイカーさんや、近年増えているらしい日本のETF市場に参入している海外のマーケットメイカーさん)には頑張ってもらいたいものです。
(最後に渾身のマウス手書き図をご堪能くださいませ。クリックで拡大します。)

※1 参考記事→インデックス投資とは
※2 この問題に関しては、インデックス投資界隈最大手ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」さんが、個人投資家が安心して長期投資できるようにと、国内ETFについて定期的(毎月)にチェックして記事にしています。
→当記事執筆時点の最新記事:国内ETFの「基準価額と市場価格の乖離」(2014年5月末時点)、ついにフロンティア株が正常化か
※3 ETFについてご存知ない場合は、以前書いた記事「ETFやETNを普通の人や投資初心者にオススメしていない理由」や、その記事の最後にある東京証券取引所の関連サイトをご参照ください。
※4 基準価額は、ETFの売買単位口数あたりで算出・表示されることもあれば、1口あたりで算出・表示されることもあります。普通の(非上場の)投資信託の場合は、通常1万口あたりで算出・表示されます。
※5 基準価額は1日1回しか算出されませんが、当記事内では「ある時点での理論価格(正味価格)」としても基準価額という言葉を使っています。
※6 指定参加者の話を単純化するために、売買手数料・指定参加者の手間・爬虫類ショップ側の利益などは除外して説明しています。
※7 実際には、先物取引なども駆使しているようです。

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